論文掲載「9.11同時多発テロとグローバル化」2015年11月19日

 旧稿ではありますが、創価大学社会学会機関誌『ソシオロジカ』(第31巻1-2合併号、2007年3月、1-29頁)に投稿した論文を、本ブログでダウンロード・閲覧できるようにしました。
創価大学の機関リポジトリから: http://hdl.handle.net/10911/2471
OneDriveから:https://1drv.ms/b/s!AgxuAU--OroagewPS3zENAMdAk9dUw (2011年に加筆修正して読みやすくした原稿です)

 ここに再掲した理由は、いうまでもなく、11月13日に発生したフランス・パリでの同時多発テロに触発され、また同時に、このテロの背景と実行犯たちの実像を、しっかりと見つめなければならないと痛感したからです。この論考では、グローバル化との関連でまとめましたが、同時に、リーダー格だったモハメド・アタをはじめ、19人の実行犯の生い立ちや出身地での生活などもできる限り調べ、彼らがテロに至った精神的闇を解明しようと努めました。そして歴史的には、第一次大戦後の英仏を中心とした中東分割支配、植民地主義に西欧への怒りの底流があることも分かりました。
 ここで理解したテロへの道程と、今回のテロには共通点とともに、大きな違いがあると感じています。それをこれから探求していきたいという想いから、再掲しました。

 先日13日のパリ同時多発テロは西側先進国において発生したものとしては、2001年9月11日のアメリカでのテロに匹敵する衝撃を世界に与えました。犠牲になられた多くの市民の皆様に心から哀悼の意を表します。
 同時に、その1日前にレバノンのベイルートで起こった自爆テロでも40人以上の一般市民が犠牲になっているにもかかわらず、ほとんど報道されませんでした。ベイルートの人々が怒りと疑問を声にし出したことも、細々とSNSで伝わってきました。いわゆる「国際社会」というものが、西側中心の世界であるという現代世界の非対称性をいやというほど感じた、数日でした。

 フランスは非常事態宣言を出して国境を閉鎖し、「これは戦争だ」とオランド大統領が断じて、ISへの空爆を強化し、ロシアも先のロシア民間機墜落はテロによる爆発が原因と断定して、史上最大の空爆をシリアで再開しました。プーチン大統領はフランスを「同盟国」だとまで表現して、テロ対策で連携を強める方向へ転換し、ウクライナ問題で閉め出された「国際社会」に復帰できたようです。

 空爆は、ISへの打撃を加えることになるでしょうが、私は、そういう軍事作戦ではテロは根絶できないと考えています。パリの同時テロは、実行犯たちは米9.11のように海外から入り込んだ人間ではなく、フランスやベルギーなどヨーロッパ諸国内で生まれ、育ち、昨日まで殺害した人々と同じ街で生活していた若者たちです。そして、劇場やレストランで無差別に同胞市民を殺害していく、そのの残酷さでは米9.11を上回っていると感じます。彼らをそこまで追い立て、駆り立てた動機、社会的背景を正面から見つめていかなければならないと考えます。
 ジハードやイスラム帝国の再興などの宗教的理由がレトリックとして語られてはいますが、そこが主原因とする宗教的テロとは思えません。主たる要因はフランス社会、ベルギー社会の中にあるのではないでしょうか。その点を、今後、追求していきたいと考えていますし、そのことでわれわれの社会の闇も照らし出すことができるのではないでしょうか。
 
 現時点で、私の考えに極めて近い記事を教えてもらったので、合わせて紹介します。ニューズウィーク日本版に掲載されたジャーナリストの記事です。
http://www.newsweekjapan.jp/kawakami/2015/11/post-3_1.php