中道改革連合の敗北について ― 2026年05月31日
はじめに
2.選挙結果
3.敗北の要因
4.考察と展望
【参考資料】
昨2025年10月の自公連立の終焉以降、政界はめまぐるしく動き、2026年2月8日の第51回衆院選で、自民党は316議席と単独で2/3を越え、日本維新の会36議席と合わせると与党で352議席という史上最大の与党議席数を獲得した。他方、右傾化する自民・維新による高市政権に対抗する勢力として、立憲民主党(以下、立憲)と公明党の衆議院議員によって「中道改革連合」(以下、中道)が結成され、衆院選に臨んだものの公示前議席167に対し49議席と、118議席も減らして惨敗した。
自公連立の終焉については、既に、これまでの拙論を整理しつつ、連立解消は妥当だとの立場から、今後の公明党のあり方についても纏め、ブログなどで公開した(「自公連立の終焉に思う」【中野毅の朝ぶろ】https://tnakano1947.asablo.jp/blog/2026/01/11/9829742 )。ポイントは、①自民と公明の連立は基本理念や支持層の大きな相違から矛盾や無理が大きかったこと。②そのため公明の主たる支持層である創価学会員も公明支持への意欲を減退させ、それが先の参院選までの三連敗につながった。③公明の公明らしさ、ブランド性は、大衆的仏教運動体である創価学会から生まれたということであり、その底流にある大乗仏教の「慈悲の精神」「一念三千論に見る縁起論=他者や自然との相互依存的世界観」「桜梅桃李の多様性と包摂性」「この世での清浄な生き方→清潔な政治・政界浄化」である。「大衆のための政治」とともに、そこを忘れてはならない。④公明の支持層は、物価高や格差拡大などで最も影響を受けるローワー・ミドルクラス。その人びとの経済的基盤を底上げするベーシック・サービス論などの政策をしっかり実現すべきである。⑤平和主義は重要な基本理念であり、非核三原則、無制限な防衛費増大の抑制などを断固堅持。⑥政党としてもっと自立し、自力をつけることが必要。党組織をさらに広く深く確立し、日常活動を議員と共に担えるレベルまでにすることで、創価学会に過度に依存しない体制を作る。⑦めざすべき国家像、社会像を明確にし、中道勢力の軸となっていくことが重要である、などである。
2024年10月の衆院選で32議席から24議席へ、25年6月の東京都議会選挙では23議席から19議席へ、7月の参院選で改選数13から8議席という三連敗を受けて、公明党は党存亡の危機にあるとの総括をし、敗北の最大要因は自民党の裏金議員を何度も推薦したことが、支持者からの大きな批判を招き、離反を招いたことだとした。その意味で、裏金問題や温床である企業団体献金の規制に消極的な高市自民党と手を切るとの決断は理解できる。7月の参院選における比例区得票数521万票は、3年前より97万票も、6年前より132万票もの減少であった。この得票数の減少は、主たる支持母体の創価学会員の高齢化が要因とされることが多い。しかしそれだけでは、この急激な得票減は説明できない。会員の公明党への幻滅による支持の減少や他党への投票が、もう一つの大きな要因なのである。しかし、それだけであろうか?筆者は、そもそも自公連立自体が孕む矛盾が、支持の減少の最大要因と考えてきた(1) 。前記論考は、その考えをまとめたものである。
連立解消については肯定的評価が全体として77.0%で、自民支持層では74.4%、公明支持層では80%以上だった(産経新聞社・FNN合同世論調査、10月25,26日。産経新聞10月28日)。自民および公明支持層の両者とも、26年に及ぶ連携に不満を抱えていた。自民との連携で公明が比例で900万票近く取ったこともあった(2005年衆院選)が、その後は減少の一途であり、機能不全を起こしていたと言える。
なお、今回の自公連立解消の背景には、余り語られていないもう一つの要因がある。それは池田大作氏の三回忌を経たことである。26年前に自公連立がなされた時、当時の小渕自民党は苦境に陥っていた。さらに公明党側には自民党による執拗な創価学会攻撃を止めたいとの思惑があった。自民との手打ち、連携によって攻撃はなくなり、26年が経過した。後顧の憂いもなくなった現在、もはや無理して連立を維持する理由も消失したことが、間接的には働いていたと思われる。
(1)筆者は、『戦後日本の宗教と政治』(大明堂、2003年)で創価学会の政治参加を本格的に論じて以来、自民党と公明党の宗教的思想的異質性および基本政策の相違、さらに支持層の階層分析による利害関係の対立などから、自民党との連携・自公連立政権に内在する矛盾点や問題性を指摘してきた。中野 毅「民衆宗教としての創価学会 : 社会層と国家との関係から」『宗教と社会』第16巻、2010年。その問題意識をまとまった形で書いたのが「自公連立政権と創価学会」(島薗進編『政治と宗教』岩波新書、2023年1月、第3章)である。
以下、本稿では、その後の動向を覚書としてまとめておく。
1.新党「中道改革連合」(略称・中道)に至る経緯
第二次高市政権が維新と連立を組んで発足し、右傾化が明確になると共に、憲政の常道を外れる国会冒頭解散を行い、2月8日に衆院選が強行された。この暴挙に対し、公明党と立憲民主党は、新党「中道改革連合」を結成して対抗することになった。この一連の動きには驚いたが、右傾化した自民・維新の政権に取って代わりうる中道勢力の大きな塊をつくることへの期待も広がった。筆者はやや拙速であるような印象をもちつつも、成功して欲しいと願っていた。しかし、結果は惨敗であった。
この新党結成に至る経緯は不明な点も多いが、知りうる限り整理すると共に、敗北の要因を考え、展望と期待について記したい。まず、新党結成に至る経緯を時系列で列挙すると以下のようである。
【2025年9月〜12月 自民党総裁選と水面下での接点形成】
9月22日 自民党総裁選が告示され、党内権力構造や今後の政局が不透明化。
9月下旬(総裁選期間中)野田佳彦代表(立憲)と斉藤鉄夫代表(公明)が、この総裁選の頃から水面下で断続的に接触。但し、両党の合同や連携の為ではなく、諸法案への対応の話が中心であったという。
10月4日 自民党総裁選の投開票。高市早苗新総裁が決定。この総裁選の時機が、立憲・公明が“将来の政界再編”を視野に入れて意思疎通を始めた起点と位置づけられる。
10月8日頃 立憲民主党が、野党一本化に向けて玉木雄一郎代表(国民)を首班指名する動きをする。
10月10日 公明党は、自民党との長年の連立政権から離脱を決断。これにより公明党は「自民補完勢力」から離れ、独自の中道改革路線を模索しつつ、党の再生をめざす方針へ転換。また今後の衆院選では小選挙区からは撤退し、比例代表中心に臨むことも表明。
この頃から、立憲民主党と公明党との連携の動きが強まり、創価学会の選挙担当者(佐藤浩副会長)に立憲民主党の安住淳幹事長が接触する。立憲から新党設立を含む複数の連携案が提示されたと言われている。
10月15日 日本維新の会が自民党と連立の動きを強め、立憲民主党は玉木首班指名を諦める。
10月20日 自民党と日本維新の会の連立合意が決まる。他方、野田佳彦代表(立憲)が「中道路線を明確にし、戦っていく」と発言をする。
10月21日 高市早苗総裁(自民)が、首班指名を受ける。この後、立憲民主党と公明党は本格的に新党設立の動きを強めていく。
【2026年1月 協議の本格化、表面化】
1月10日 報道各社が一斉に、 「高市政権内で通常国会(1月23日召集)冒頭の衆院解散を検討している」という動きを伝えた。
1月11日〜12日 野田代表と斉藤代表
会談。野田佳彦(立民)と斉藤鉄夫(公明)が、選挙協力や連携強化を視野に入れた正式会談を実施。衆院選に向けた連携レベルの引き上げた動きが活発化。野田代表側は、「水面下では以前から協議してきた」と述べ、総裁選期からの接触を事実上認める形に。
1月13日、週刊誌『FLASH』のサイトが永田町に出回り、「自民党調査」の数字を報じた。自民が当時の199議席から260に躍進し単独過半数を回復する一方、立憲民主党は148から半減し70となるとの予測。公明党も、24から18へ党勢が後退するとされた。この予測が新党結成へと向かわせた一大要因と思われる。
1月13日 安住氏は、1月13日付で各都道府県連の代表と選挙責任者に「公明党・創価学会への対応について」と題する書面を配布。
1月14日 公明党から創価学会へ、新党結成して衆院選に臨むと正式に伝達。創価学会は全国方面長会議を招集して徹底を図る(2)。
1月15日 新党結成で正式合意。立憲の安住幹事長が「創価学会の佐藤浩副会長を通じて原田稔会長から新党の承諾を取った」とされる。立憲民主党の両院総会で「中道改革勢力として結集していく。この協議は、昨年10月から続いてきたものです。」との発言がある。
1月16日 野田代表が、総務省への新党設立届出。中道改革連合が設立。
1月17日 聖教新聞1面「時評
いまを読む①」で、創価学会教学部長・原田星一郎氏が中道論を展開
1月20日 聖教新聞5面「座談会2」で、新党発足をたたえ、中道の意義を強調
1月22日 中道改革連合が結党大会を開催。公明出身の候補28人を比例区に擁立と公表。衆院議員が離党し中道に合流したため、公明党代表には竹谷とし子氏が就任。
創価学会は中央社会協議会を開き、衆院選での新党「中道改革連合」支持を決定(公明新聞1月23日号、聖教新聞同日号)
1月24日 聖教新聞「時評 いまを読む②」で、慶應大学教授・井手英策氏が中道政治の意義と可能性を語る。
このような経緯で新党が結成され、共同代表に野田・斉藤両氏が、共同幹事長に安住淳・中野洋昌、共同政調会長に本庄知史・岡本三成氏らが就任した。当面は衆議院議員のみが参加し、参議院および地方議員の中道への合流は、将来のこととされた。
政策としては、「生活者ファースト」を政治の原点に据え、平和を守る人間中心の社会の実現をめざす。立憲主義を政治の土台とし、権力の濫用を防ぎ、個人の尊厳と自由を守る。多様な価値観や生き方を尊重し、共生と支え合いによって地域・社会の安定と活力を高めていく。対話と包摂を重んじる中道の立場こそが、今の時代に求められる政治であるとして、次の5つの基本政策を打ちだし、選挙に臨んだ(公明新聞、2026年1月20日号)。
①一人ひとりの幸福を実現する、持続可能な経済成長への政策転換
②現役世代も安心できる新たな社会保障モデルの構築
③選択肢と可能性を広げる包摂社会の実現
④現実的な外交・防衛政策と憲法改正論議の深化
⑤不断の政治改革と選挙制度改革
(2) 與那覇 潤「『敗戦後」の責任論―「だまされた」ではすまされない」『潮』6月号。潮プラス先行配信2026年04月17日 https://plus.usio.co.jp/articles/detail---id-174-pageid-3.html
2.選挙結果
中道は小選挙区に202人の、比例代表に234人(重複を含む)の候補者を擁立した。公明系からは比例代表のみに28人が立候補し、全員が比例単独として名簿上位に位置づけられた。結果は比例代表で42人、小選挙区では7人しか当選できなかった。公明系は全員当選した。全体として公示前の167議席から3分の2以上の議席を失い、49議席まで減らした。得票数も比例で1043万票と、前回の立憲(1156万票)と公明(596万票)の合計1752万票から大幅に減少した。
比較第二党が衆院選で得た議席数としては戦後最少で、発議に51人(発議者1人と賛成者50人。衆議院規則第28条の3)が必要な内閣不信任決議や、予算を伴う法案の単独提出が不可能になった。開票中には共同代表の野田氏が「万死に値する大きな責任だと思っています」と述べ、候補者一覧へのバラ付けが中止されるなど、党内に衝撃が広がった。
立憲出身者を擁立した小選挙区での議席獲得はわずか7議席で、公示前の108議席の大半を喪失した。民主王国と呼ばれた地域でもことごとく敗北。北海道・東北地方では神谷裕と階猛を除き敗れ、愛知・新潟・長野などでは全敗した。他の地域でも立憲元代表の泉健太、立憲元幹事長の小川淳也など5名の当選に留まった。若手・中堅議員のみならず、重鎮と目されてきた党首・閣僚経験者らベテラン議員や党役員も次々と落選した。小沢一郎、岡田克也、海江田万里、枝野幸男、江田憲司、玄葉光一郎や、総務省への届出上の代表である山井和則、共同幹事長の安住淳、政調会長の本庄知史、共同選挙対策委員長の馬淵澄夫、副代表の近藤昭一、選対事務局長の逢坂誠二が比例復活もできず(岡田は重複立候補せず)、議席を失った。立憲出身候補の当選は自民党の登載者不足により議席を割り振られた分や比例復活を含め21人で、前回の7分の1に激減した。
比例では、小選挙区からの撤退を引き換えとして公明党出身者を上位で処遇した。共同代表の斉藤鉄夫ら公明出身候補28人は全員当選し、前回落選した公明元代表の石井啓一や公明元副代表の伊佐進一が国政復帰し、公示前24から議席を増やした。一方で立憲出身者は比例復活の機会が極めて限られた。特に近畿ブロック以西では比例の当選者が公明出身者で独占され、小選挙区で落選した議員は惜敗率に関わらず当選が不可能になった。比例で獲得した票は1043万票で、前回獲得した立憲(1156万票)と公明(596万票)の合計1752万票から大幅に減少。前回立憲が単独で獲得した票をも下回る結果となり、獲得議席も64議席(公明20+立憲44)から42議席(自民の登載者不足で獲得した2議席を含む)へ減らした。
ただ自民の得票数と比較すると、小選挙区で自民2771万0493票(得票率49.09%)、中道は1220万9641票(21.63%)に対し、比例区では自民2102万6140票(36.72%)、中道1043万8802票(18.23%)であった。他の野党は全て500万以下なので、議席数は大幅減だが、票数でみると健闘したとは言える。
注目の東京都第24区(八王子市)でも萩生田光一の85,806票に対し、新人の細貝悠は70,781票を取り健闘した。ただ前回(2024年)衆院選で萩生田は79,216票、有田芳生は71,683票で落選・比例復活している。萩生田は公明支持票がなくなったはずだが、約6,000票も伸ばしている。今回は日本維新の会が推薦をだしたので、前回の18,000票の大半が荻生田に流れ、公明支持層の分を補ったと推測できる。細貝は日本共産党(2021年総選挙で44,474票、2017年で24,349票を獲得している)の推薦がなくなった分、公明支持層が補ったが、不十分だった。
立憲民主党が中道改革連合を公明党と立ち上げたことで、共産党からの推薦がなくなり、その支持層が離れたことは小選挙区では大きく響いたようである。東京都第8区(杉並区の大半)で、現職の吉田はるみ(立憲)が落選したことも、その影響と思われる。
3.敗北の要因
自民党が圧勝した要因の最大のものは、多くの論者や調査が示すように、高市氏個人への高い人気であることはまちがいない。近年の国内の経済的不安定やロシアによる侵略戦争などの国際的な混乱の中で、日本をなんとかしてくれる「強いリーダー」のイメージ作りに成功した。初の女性首相誕生という点も、大きな利点になった。首相になって時間も短く、業績などほぼない状態で、国会冒頭解散という強引さや信任投票のような総選挙に持ち込んだ手腕も評価されたと言える。
しかし、選挙結果は自民党の圧勝(316議席)だが、自民の比例票は2100万票に過ぎず、5年前の岸田総理の時(2021年、2000万票)と大きくは変わらず、小泉総理の郵政選挙の時(2005年、2580万票)に遠く及ばない。自民党が圧倒的に選ばれたというよりも、対抗勢力の中道が選ばれなかった「自滅型選挙」だった。加えて、小選挙区制の弊害が大きく影響したこと、立憲議員の各小選挙区での支援組織の脆弱さなどが災いして議席数の激減に繋がったと言えよう。
①立憲、公明支持層の流失-自滅の最大原因
中道の結成時に期待されたのは、両党による「1+1=2」を越える相乗効果だったが、それは生じなかった。その要因については種々論じられているが、学術的に信頼性が高く、かつ厳しいのは、小林良彰・慶應大学名誉教授が党理論誌『公明』に寄稿した論考である(3)。小林氏が主催する「投票行動研究会」は、長年にわたって衆参国政選挙の前後に調査を行っているが、この論考には、今回の選挙での幾つかの調査データが示されている。その中で極めて重要なデータは、下記の表で示された数値である。
| 2025年参院選比例区の立民・公明投票者の主な2026年衆院選投票先(単位:%) | ||||||
| 自民 | 中道 | 国民 | みらい | 棄権(含白票) | ||
| 立民投票者 | 小選挙区 | 7.9 | 52.6 | 6.1 | 2.7 | 22.7 |
| 比例区 | 7.4 | 53.4 | 5.9 | 6.4 | 20.1 | |
| 公明投票者 | 小選挙区 | 19.6 | 50.0 | 3.4 | 1.4 | 23.0 |
| 比例区 | 14.9 | 52.0 | 2.0 | 5.4 | 20.3 | |
| 調査主体:投票行動研究会 有効回答数6270人(62.8%) | ||||||
昨年の参院選比例区で立民に投票した人のうち、今回の衆院選小選挙区で中道に投票したのは52.6%であり、22.7%が棄権し、自民に7.9%、国民に6.1%も流れている。比例区も似たような動向だが、みらいにより多く流れている。
さらに衝撃的なのは公明支持者の行動である。小選挙区で中道に入れたのは50.0%であり、自民に19.6%も流れている。棄権も23.0%と多い。比例区では中道52.0%、自民14.9%、みらい20.3%、棄権20.3%であった(4)。要するに、旧来の両党支持層が半数程度しか中道に入れなかったのである。この厳しい数値は調査方法や投票者の分類の相違にもよるようであり、新聞各社の出口調査では約70%が中道に入れたという結果もある(5)。もっとも、各種調査でも無党派層や若年層へは、ほとんど浸透しなかったことは事実ある。
さらに各種調査をみると、無党派層や若年層へは、ほとんど浸透しなかったようである(5)。
従来の立憲支持者が、原発再稼働や沖縄普天間基地の辺野古移転を容認する方針を打ち出した中道への戸惑いや反発から、支持をやめて他党へ投票したり、棄権したことは容易に理解できる。また立憲支持層にある創価学会アレルギーも影響した。さらに前回衆院選で推薦や支持を表明していた共産党が中道への批判的立場を明らかにし、自主投票にしたことも大きく影響した。
公明支持者についても、短期間での自公連立離脱から、それまで対立していた立憲との新党結成は簡単に受け入れられない事態であった。26年に及ぶ自民党との連携・連立は重く、人間関係が深まった地域も少なくない。地方議会での自民との連携は、現在でも緊密である。他方、立憲候補は人柄も分からず、人間関係も浅い。これらの要因から小選挙区で、
公明党の主要な支持母体である創価学会中央の選挙への取り組みは、極めて迅速であった。冒頭の時系列で記したように、14日の方面長会で新党結成を伝えて支持を全組織に徹底し、新党設立を届け出た翌日(1月17日)には聖教新聞で教学部長が「中道論」を展開した。その後の「紙面座談会」などで新党の意義を強調して支援を明確にしていった。巨大組織がうねりをあげて短期間で新党支持へと急旋回していったのである。
しかし自公連立を解消した時点で、衆院選では今後は比例代表中心で行くことと共に、これまでのような強力なF(友人票)取りをやらないことも表明していた。これは学会員以外への投票依頼は余りせず、会員への支援指示が中心となったわけだが、会員への投票確認も今回は弱かった。創価学会中央が公明党などへの支持を決めても、会員が自主的な判断で他党へ投票する傾向が自公連立政権の後半には顕著になってきたことを、筆者は何度も指摘した。創価学会は、会員の政治的行動は自由であることを公明党結成以来の原則として認めてきたが、それでも大部分の会員は中央の指示に従ってきた。しかし、今回の立憲との新党結成は周知期間も短く、長年対決してきた政党・人物への支援に納得する時間もないまま戸惑いが大きく拡がったようである。支部長クラスの現場責任者は、すでに自公連立時代しか知らず、野党としてのあり方に戸惑っていた。ましてや若年層の会員では、それ以上である。
小選挙区で半数しか投票しなかった主要な原因は、ここにある。しかしながら、これは創価学会員の投票行動が成熟してきた、またはノーマル化してきたとも言える。信仰は同じでも、政治的経済的利害関係は多様である。公明党が結成当初のように宗教性を表に出していた頃は、会員の信仰と合致していた。しかし、いわゆる「政教分離」を行って国民政党として再出発して以降、党の政策と支持者の政治経済的利害は単純には一致せず、政治的選択は多様になる。今回は、それが顕著に表面化したのである。
(3 )『公明』2026年4月号2-8頁。同様の短いコメントが公明新聞2026年2月18日一面にも掲載された。
(4) 『公明』2026年4月号、公明党機関紙委員会、2-8頁。同様の短いコメントが公明新聞2026年2月18日一面にも掲載された。(衆院選結果 識者に聞く)「首相、イメージづくり成功/民意を的確に反映する選挙制度へ議論が必要/慶応義塾大学名誉教授
小林良彰氏。参考資料参照のこと。
(5) 文末の朝日新聞、時事の調査結果を参照。年代別支持政党については、表「今の支持政党」NHK世論調査、2026年2月18日。また文末の朝日新聞グラフも参照のこと。
(6) 最近のものでは、前記拙ブログ「自公連立の終焉に思う」【中野毅の朝ぶろ】を参照のこと。
https://tnakano1947.asablo.jp/blog/2026/01/11/9829742
②選挙政策の失敗
中道改革連合が選挙に対し打ちだした諸政策も、急ごしらえだったためでもあろうが的確とは言えない。小林氏は先の論考で、中道の敗因として①政党と有権者の関係が時代遅れ。②政策が抽象的で分かりづらい。③ネット対策の遅れ、をあげている。①では、政党の方針に支持者は従って当然と考えていないかと問う。短期間で新党を結成し、掲げた諸政策も重要な点で従来の方針を変換したにも関わらず、党内論議はほとんどないまま突入した。これではついて行けない支持者が多数出ても当然である。②では基本政策が抽象的で、有権者にもたらされる具体的なメリットが分からない。食料品消費税ゼロをいきなり掲げて、その財源はジャパンファンドでまかなう点も、その実現性に疑問を持つ。他の点も「空っぽに等しい内容だ」と厳しい。
慶應大学教授の井手英策氏も「長い与党の経験を持つからこそ、責任ある政策を掲げる政党として、公明党には期待し助言してきました。野党に転じた昨年11月に掲げた『政策5本柱』の1本目は、全世代型の社会保障の充実。私の持論である『ベーシック・サービス』の概念も明記され、ここまで来たか、と感動したものです。ところが中道改革連合の5つの柱では、トップは経済成長に置き換えられ、社会保障は2番手に後退。目玉の公約も『食品消費税の恒久ゼロ』という、減税ポピュリズムに一変しました。ベーシック・サービスの言葉だけ残っても、全体の方向性は180度逆になった。寂しさ、そして虚しさに押しつぶされそうになりました」と嘆いている(7)。この記事では、立憲との合流の条件をすりあわせる過程で、公明候補を代表比例の上位に置くことと、社会保障という重要政策を後退させるバーターがなされたのではないかと示唆している。
大阪経済大学准教授の秦正樹氏の指摘は辛辣だ(8)。「中道改革連合の党名や綱領を見たとき、公明党の中心的な主張である「中道」を党名に掲げ、公明党および支持母体である創価学会が大切にする「人間主義」という言葉を綱領にそのまま掲げたことに驚いたし、立憲民主党でなく公明党の後継政党のようにも見えた。では、多くの有権者は中道改革連合を文字通りの「中道」と感じたのだろうか。」「立憲と公明が合流を企図した背景には、立憲の左派色を公明の中道色で薄め、公明の宗教的イメージを立憲の政治的背景で塗り替えるというもくろみがあったのだろう。しかし現実には、中道改革連合は考えうる最悪のブレンドとなった。・・・・「人間主義」を標榜することで圧倒的な公明色をまとい、一方で「中道」を自称することで逆説的に立憲由来の左派色を際立たせてしまったのである」。
(8) 前掲、與那覇 潤、『潮』2026年6月号。
(9) 「『中道』訴え、逆に際立った左派色」『朝日新聞』2026年2月17日。https://digital.asahi.com/articles/ASV2G3RZ2V2GULLI001M.html?iref=pc_photo_gallery_bottom
その他にも種々論評されているが、厳しい指摘が多い。筆者は秦氏の指摘と同様に、「人間主義」「中道」などの抽象的で哲学的、かつ創価宗教的な用法を多用したことも敗因の一つと考えている。中道改革連合という「政党」の基本政策が、「宗教団体」創価学会の理念に引き寄せられ過ぎていたのである。世間一般の創価学会アレルギーを引き起こした要因である。
中道政治論は、池田大作創価学会会長(当時)が1964年の公明党結成に際してビジョンとして提唱した。その経緯や主張は『新・人間革命』第11巻の「常勝」「躍進」章に再録されている。その基本部分が以下のようにまとめられて、支持者に配布された。
「中道」の理念と公明党 ~新人間革命第 11 巻「常勝」「躍進」の章から~
○山本伸一は、現在のままでは、世界情勢は大変な事態になりかねないと指摘し、世界平和を創
出するための哲学こそ、仏法の「中道主義」であることを訴えていった。
「中道主義を根底にした政治、すなわち中道政治は、対峙する二つの勢力の中間や、両極端の真ん中をいくという意味ではありません。あるいは、両方から、そのよいところをとって、自己の生き
方とするような折衷主義でもありません。色心不二の仏法の生命哲学に立脚した、人間の尊厳を守り、平和と幸福を実現しゆく政治ということであります。
また、その政治は、党利党略が中心であっては絶対にならない。何よりも国民大衆の利益を第一
義に、大衆福祉をめざす政策を実践する政治であるべきです。それが、私どもが支援する公明党 の、永遠の在り方であると、私は断言しておきたい。
そして、そのためには、ある時は、保守政党の政策を擁護していく立場をとることもあるでしょう。
ある時には、革新政党と協調し、進んでいくこともあるでしょう。常に現実的であると同時に、大局観に立った、高い次元の政策を実践していくというのが、中道主義に生きる政治家の行動でなければなりません」。
○「私どものめざす中道政治とは、一言でいえば、仏法の中道主義を根底にし、その生命哲学にもとづく、人間性尊重、慈悲の政治ということになります。人間性尊重とは、人間生命の限りない尊厳にもとづき、各人各人の個性を重んじ、あらゆる人が最大限の幸福生活を満喫していけるようにすることにほかなりません。
社会のいっさいの機構も、文化も、そのためにあるものと考え、政治を行うのが人間性尊重の政治であり、それによって築かれる社会こそ、われらの理想社会であると思うのであります」
○「世界の時代の趨勢は、真に人間性に立脚した中道主義、中道政治を求めて動いていることは
明らかです。まさに、中道主義によって、平和と繁栄の新社会を築くことを、全民衆が心から待望する時代に入ったと、私は確信するものであります」
○二十一世紀を、断じて「滅亡の世紀」にしてはならない。絶対に、「希望の世紀」に、「平和の世
紀」に、人間の尊厳を守り抜く「生命の世紀」にしなくてはならない”伸一が、公明党のビジョンを発表したのも、そのためであった。(後略)
『新・人間革命』では、大乗仏教の「色心不二」論や「空仮中の三諦」論から中道論を展開し、法華経に至って、「円融三諦」、すなわち三諦のそれぞれが他の二諦を具え、融合し、一体となっていることが明かされ、完全無欠なる生命の真実の姿が説かれたとした。この円融三諦の完全な生命観を自在に展開したのが、末法の法華経である日蓮仏法である。この日蓮仏法に基づき、肉体、物質にも、心、精神にも偏することのない、生命の全体像に立脚した「中道主義」を掲げ、「生命の尊厳」の時代を築きゆくのが、創価の大運動である。
従って公明党の政治も根底は中道主義に基づかなくてはならない。その上で『中道政治で平和と繁栄の新社会』の建設をモットーに、第一に『清潔な民主政治の確立』、具体的には「平和憲法を守る」「議会制民主主義を確立する」「言論、結社、信教の自由を守る」ことを実現していく。内政面においては、『大衆福祉で豊かな生活』をスローガンに、「相互扶助で福祉経済を確立する」「最大の社会保障制度を確立する」「人間性豊かな文化を建設する」などを目標に、前進して欲しい。外交面においては、「戦争のない平和な世界」をめざし、「核兵器の全面廃止を実現する」「国連を改革し、世界完全軍縮を実現する」ことなどを主張したのである。
池田会長が提唱した当時は、東西冷戦時代のただ中にあり、世界的には資本主義対社会(共産)主義の対立、国内では自民党対社会党という構図だった。資本主義的利潤追求やイデオロギーによる支配によって取り残されたのが「人間」だという観点から、「私どものめざす中道政治とは、一言でいえば、仏法の中道主義を根底にし、その生命哲学にもとづく、人間性尊重、慈悲の政治ということになります。人間性尊重とは、人間生命の限りない尊厳にもとづき、各人各人の個性を重んじ、あらゆる人が最大限の幸福生活を満喫していけるようにすることにほかなりません。」と主張した。国家や経済的利益、イデオロギーを優先する東西冷戦時代の左右対決する政治を批判し、公明党は各人の個性を重んじる人間性尊重の慈悲の政治をめざすべきと、仏教の理念に基づきながら政治路線の基本を展開した。宗教団体が、政党を創出し、支援する理由としては十分な主張であると言える。
しかし今回の選挙では、中道政治とは「人間主義」に基づく政治であり、「左でもなく右でもなく、中(みち)にあたる」政治などと強調され、政党の政策や路線の表現としては意味不明であった。政党としては、もっと現実的な意味を明確にする必要がある。政権が右へ旋回しすぎる時は、中道政党は左によってブレーキをかけるのが政治闘争ではなかろうか。また「人間主義」も、近代思想のヒューマニズムを意味するのか意味が曖昧であり、「人間中心主義」と紛らわしい。「生命の尊厳」を謳うなら、全ての動植物の尊厳や環境の重視を主張すべきであろう。「生活者ファースト」にしても、どのような社会層、経済状況の人びとを中心に考えるのか、政策として明確にする必要がある。富裕層も生活者である。用語としては「大衆」が限度である。これもやや曖昧ではあるが、社会学的に定義もされている。総じて、階級的分析、階層論的視点が欠けていると言わざるをえない。この点については、後述する。
以上のような政策上の問題点も多々あったが、筆者の印象としては、自民党総裁の高市氏の掲げた「日本を強く、前へ」「国論を二分する政策の実現」などのスローガンは、中身が全くないにもかかわらず、これまでになく何かをやってくれる首相としてのイメージを有権者に植え付けることに成功した。初の女性首相の誕生という期待もあり、追い風を吹かせた。それに対し、中道の諸方針は受け身のような印象であり、かつ総花的で抽象的だった。政治改革も5番目に格下げされた。若者や無党派層には全く刺さらなかったのである。
③選挙戦術の失敗
これも種々論じられているが、なによりも中道の二人の共同代表が男性で高齢化しており、女性が中心に出なかったことが、新党が斬新さのない既成政党の野合という印象を一般に与えたことが、最も痛手だったと思われる。地元の阿佐ヶ谷駅前に野田代表、高市総裁の両人が、それぞれの支援者の応援演説で駆けつけたが、前者は雨天のためでもあったが、全く盛り上がらなかった。またその集会や演説内容をネットで確認しようとしたが、前者はいつまでもアップされることはなかった。他方、高市氏の演説は直ちに配信された。
このようにSNS駆使の未熟さも歴然としていた。自民党は解散総選挙が内定した段階で、党本部および各県ごとに選挙対策本部を立ち上げ、SNSを駆使した戦術を周到に準備した。さらに中道候補へネガティブ・キャンペーンを組織的かつ大量にYouTubeなどで拡散したと報じられている(9)。その結果は、枝野氏や安住氏の大差での落選に現れている。
他方で、公明党は参院選までの三連敗を受けてSNSを重視し、サブチャンネルを開始するなど急速に進展させはした。しかし、その重視する姿勢や依存が裏目に出た面もある。大集会を開いてSNSで拡散させるなどしたが、それらがフェイクだとして逆評価された。
これらからSNSの利用が未熟だとも言えるが、同時に地道な得票行動を軽視する結果になったのではないかと危惧している。SNSでの拡散や大集会では盛り上がっていたが、創価学会の組織での会員への支持促しや友人票の獲得への動きは鈍かった。やはり選挙は地道な支援依頼活動が重要なのではないかと考えざるをえない結末であった。話は飛ぶが、この点は前回のアメリカ大統領選挙で感じたことでもある。民主党のハリス陣営は、有名人やセレブを動員する大集会を各地で行い、一見すると大きなウネリが起こっているように思われた。他方、トランプ陣営は確かに大規模集会も行っていたが、実は草の根レベルでの戸別訪問や地域や大学での小規模集会やセミナーを地道に行っていた。このような活動が、最終的には成功を生みだしたと考えている。
(9) 「高市陣営が流した『進次郎は無能』動画」『週刊文春』2026年5月7/14日号。
4.考察と展望
今後どうあるべきか筆者自身も暗中模索状態だが、少なくとも立憲、公明の参院議員、地方議員の中道への合流は急がず、中道、公明、立憲が地域ごとの党組織をそれぞれしっかりと確立し、中道改革連合そのものの塊を単純に大きくするのではなく、そのウィングを左右に更に広げていく必要があると考えている。立憲は、中北浩爾氏が既に何度も指摘したように、党組織のガバナンスが崩壊しており、かつ組織として未熟である(10)。立憲系の落選組を、どう処遇し、党組織の要としていくか、資金面も含め大きな課題である。中道勢力の核になるべき存在であるが、その腹が未だに決まっていない。ならば共産党との連携を含めて左ウィングの担い手になるのも一方法である。公明は、中道改革連合に完全に合流して、その出自を消そうとするのではなく、それは消えないのであるし、むしろ前述(1頁)のようにブランド性として認識すべきである。仏教理念に由来する「慈悲の政治=弱者に徹底的に寄り添う」「清潔な政治=政界浄化」「縁起的世界=人間と自然を重視する政治=気候温暖化への警鐘」「非暴力・平和主義の堅持と拡大=原水爆禁止・戦争抑止」など、宗教性をもっと明示しつつ、衆院議員を数人持つ一人前の小ぶりな政党、価値観政党または倫理政党として、独自の路線をとるのも有益である。そうすれば中道改革連合の強烈な創価学会色が払拭されることにもなる。中道改革連合は、政権を取りに行く柱になる政党と位置づけ、その政策を党員・支持者と広く熟議を重ねて練り直し、そこに参加意欲をもつ議員、政治家を改めて募っていって欲しい。中道改革連合から創価学会色を抜くことが肝心である。
今後のあり方について、「支持者や国民の声を活かすボトムアップの政策形成を重視する」(小林良彰氏)、「信頼されるビジョンを練り直し、大きく掲げる。参院に残る公明・立憲はもちろん、中道もまた解散した上で加わり、新たな塊を一から作る。その間の政策論争はすべてオープンにし、メディアを巻き込んでゆく。これしかありません」(井手英策氏)などの提言は胆に命じておく必要がある。井手氏のベーシック・サービス論の骨格、および税のベストミックスの追求などの論は参考資料に記した。
立憲民主党と公明党との合流を単純に歓迎できない理由は、その支持基盤の相違にある。両党の支持者はどのような人々なのか、先に述べた階級的分析、階層論的視点での考察をする。小林良彰氏の研究会の調査結果(11)を元に、各政党氏支持者の世帯年収、年齢、学歴の比較をグラフにした(15頁)。公明と立憲の支持者の相違は、まず世帯年収で公明は200万円未満が高い山になっており、立憲は200~300万が山になっていることに気づく。この山は、両者の支持者に定年退職者が多いこと、しかし立憲の年金が高い方に寄っている。公明支持者の世帯年収は600万未満で全体の約72%を占めるに対し、立憲は約65%で、より高収入へと寄っている。年収800万以上となると、公明より圧倒的に多くなり、年収2000万以上の支持者は自民と立憲だけというのも興味深い。なお公明支持者の55%が500万円未満である。日本の世帯平均年収が560万円なので、景気悪化の影響を強く受けやすい層であり、70%が将来に不安感をいだいている。つまり格差拡大の被害をもっとも強く受ける階層なのである。なお500万円未満の支持層は自民42%に対し、立憲51%、共産54%であり、立憲・共産は同様の問題を抱えていることが分かる。
年齢分布を見ると、立憲支持者に60代が断トツに高く、70代も極めて多いことが分かる。これは立憲支持者に定年退職者が極めて多いこと、高齢化が著しく進んでいることを示している。公明支持者も高齢化していると言われているが、立憲ほどではなく、若い層も少なくないことが読み取れる。大きな相違は学歴にも見られる。立憲支持者は大学卒者が圧倒的に多い。他方、公明支持者は高卒が最も多く、短大・専門学校がそれに続く。
これらのグラフは2019年の参院選前後の調査に基づくデータなので、その後の変化はあると思われるし、中道の結成で支持者の流出も予想されるが、支持者の基本的な性格は推測できる。経済的基盤を基にした階級的視点からは、立憲の支持者には教員・地方公務員や比較的大きな企業の退職者が多く、年収も高い。公明支持者には中小零細企業の従事者また退職者、そして主婦が多い。他方で、両者とも高齢の退職者が多く、下層中間層も半数を超える。その点では公明支持者と共通であり、共闘が望ましいことが分かる。他方、学歴など文化的相違を含む階層的分析から言えるのは、立憲支持者は立憲主義に基づく理詰めの政治思想を展開する傾向があるのに対し、公明支持者は政治活動を信仰生活の延長に捉えており、細かい政策論議には精通していない。これらの相違を有する支持者相互の交流や理解を深めていくことは重要ではあるが、簡単ではないと思われる。
両者の相違を的確に理解すると共に、連携と合流によって支持者の幅を広げ、両者の共通の支持基盤である、中間層から下層にかけての圧倒的多数の国民の生活を支える政策を提言し、実現に尽力することを期待している。
なお宗教団体が選挙において特定の政党(候補者)を推薦・支援する活動は、「信教の自由」の展開であり、広く行われている。今回の諸仏教教団の動きも興味深い。全日本仏教会では93人を推薦(63人当選、政党名は非公表)、浄土真宗本願寺派は自民28(当選28)、中道12(同3)他。日蓮宗は自民9,国民民主1,維新1(全員当選)、立正佼成会は自民49(当選39)、中道103(同16)、国民民主18(同11)などであった。立正佼成会は旧民主党時代から民主党系を軸に推薦してきたが、今回は公明が立憲と中道を結成したことにより、間接的に創価学会と共闘することになった(12)。
宗教団体による政治参加にはいくつかのパターンがあるが、創価学会が公明党を結成しての政治参加は独特な形態であった(13)。今後、中道改革連合の支持団体の一つとなり、また公明や立憲への支持団体となることは、会員の階層的多様性を考えると当然のことと思う。それはまた、俗説の「政教分離論」での非難を解消することにもなる。(完)
(10) 中北浩爾氏は、立憲民主党の党組織の問題点、リーダーシップのあり方などを厳しく指摘している。Facebook 2026年2月12日投稿。2025年8月18日の立憲民主党参院選総括。委員会ヒアリングのメモ、朝日新聞インタビュー記事「立憲は大企業。野党に安住せず、もっと仕掛けを」など。https://digital.asahi.com/articles/AST2R3G7BT2RUTFK01MM.html?iref=pc_photo_gallery_bottom
(11) パネル調査「2019年参院選事前事後調査」。次のサイトで公開部分は閲覧できる。
https://jesproject.wixsite.com/jesproject/jes-3 小林氏からは、この調査の生データを提供していただいた。改めて感謝申し上げる。
(12) 『仏教タイムス』2026年2月19日号1面。
政策面では、下記の井手氏の講演が参考になる。4月9日に参議院会館で「ベーシック・サービス推進地方議員連盟」の設立総会が開催された。参加者は公明党、立憲民主党、国民民主党、無所属など超党派で、中道改革連合の小川代表、公明党の司参議院議員も飛び入り参加した。そこでの記念講演として、慶應大学の井手英策教授が「真の中道とは何か」と題して、現代日本が直面する危機の本質と、その処方箋としてのベーシック・サービス論を情熱的に語り、活発な質疑応答があったという。その講演要旨を東京都東大和市市会議員の中間健二氏がfacebookに投稿した(2026年4月10日。「ベーシック・サービス推進地方議員連盟の設立総会に参加」いよいよ地方議会からベーシック・サービス実現に向けて動き出します❗️)。記念講演の要旨は以下の通り。
1. 現代政治経済への痛烈な批判
教授はまず、近年の選挙で主要な争点となった「消費減税」や「経済成長」といった政策を、データを用いて根本から批判した。
消費減税の欺瞞: 消費税5%減税(15兆円の財源消失)は、富裕層に月2万円近い恩恵を与える一方、貧困層には月7,000円の効果しかなく、より少ない予算(13兆円)で全国民に10万円を配った特別定額給付金よりも不公平だと断じた。
経済成長の限界: 人口減少が世界的な潮流となる中で、日本経済は長期的に低成長から抜け出せず、成長に依存した社会設計は限界に達していると指摘。政治家が「成長させる」と叫び続けても結果が出ていない現実を直視すべきだと訴えた。
2. 日本社会の病理:「貧困と嫉妬」と「袋叩きの政治」
教授は、日本の財政を「社会を映す鏡」と表現。社会保障支出の8割以上が高齢者向けに集中し、現役世代や障害者、ひとり親家庭などへの支出が極めて貧弱である実態を示し、「ぬくもりのある財政」への転換を訴えた。1990年代後半から続く、公共事業や公務員などを標的にして予算を削る「袋叩きの政治」が社会に「貧困と嫉嫉」を蔓延させ、自己責任論を助長し、人々が互いに助け合う精神を失わせていると厳しく指弾した。
3. 対抗策としての「ライフセキュリティ」
これらの複合的危機への対案として、教授は「ライフセキュリティ」構想を提示した。これは以下の二つを車の両輪とする。
① ベーシック・サービス: 医療、介護、教育などを所得制限なく無償化する。これにより「救済される屈辱」をなくし、誰もが尊厳を持ってサービスを享受できる社会を目指す。
②品位ある最低保障(ディーセントミニマム): 生活扶助や失業給付を拡充し、住宅手当を創設する。これは貧者救済ではなく、誰もが失業などのリスクに直面した際のセーフティネットであると位置づけた。
4. 財源論と社会ビジョン:「希望と痛みを分かち合う社会」
教授は、この構想の財源として消費税5%増税が一つの目安だとしつつも、税を「取られるもの」ではなく「社会の会費」と捉え直す意識改革を促した。例えば、消費税1.5%増税で大学と介護の授業料が無償化できると具体例を提示。「希望と痛みを分かち合う社会」を築くことで、将来不安から過剰貯蓄に回っていた資金が消費に流れ、結果的に経済も活性化するという好循環のビジョンを示した。
5. 結論:「真の中道」と地方議員への期待
最後に、「中道」とは臆病と無謀の妥協点ではなく、それらを乗り越える「勇敢」さだと定義。ベーシック・サービスは「弱者救済 vs 自己責任」「健全財政 vs ばらまき」といった従来の対立軸を超越し、平等や成長を「結果」として実現する革命的な政策であると結論づけた。そして、危機的な時代だからこそ理想を語るべきだとし、国政に先んじて地域の実情から声を上げる地方議員たちに、この運動のフロントランナーとしての熱い期待を寄せ、講演を締めくくった。
小川淳也・井手英策「君は中道を立て直せるのか」『中央公論』2026年6月号、128頁~
井手:これまでの税の考え方も変えるべきです。例えば、消費税1%分の税収は約3兆円。大学の授業料が無償化出来ます。すると現役大学生の親はもちろん、小さな子供もいる親も将来の進学のための貯金が不要になります。この貯金が使われ経済が回り、消費が伸びて税収が増える。この税収で借金を返す。3兆円の税収は国民に戻ってくる。132頁
井手:ヨーロッパ諸国が消費税を重視するのは、高齢者も含めた社会全体で負担を共有し、豊かな税収をあげられるからです。例えば、消費税を財源として社会保険料を引き下げると、現役世代と高齢者の負担のバランスを変えることができます。 但し、社会保険料は企業と折半だから企業も負担が軽くなります。そこで法人税を引き上げるという選択肢が浮かぶ。その税収を現役世代の教育に使う。消費税で負担が増える高齢者に使う。教育投資で労働者の質が上がれば、経済の成長率が上がり、企業にもメリットがあります。こうした税のベストミックスを考えることが大切です。133-134頁
潮プラス HOME コンテンツ 創価学会【先行配信】「敗戦後」の責任論――「だまされた」ではすまされない 2026年04月17日配信
https://plus.usio.co.jp/articles/detail---id-174-pageid-3.html
三春充希 第51回衆院選総括試論。
https://note.com/miraisyakai/n/n79e6a411994e?from=email
松谷満 なぜこの層は右傾化しないのか
https://president.jp/articles/-/108833
時事:創価学会員の何割が中道候補に投票?衆院選小選挙区で軒並み敗北【解説委員室から】
朝日新聞:保守層自民に回帰、中道無党派層に浸透せず: 2026年2月9日朝刊、4頁
参院選比例区で国民民主に投票した人も、うち18%が自民に入れた。国民からの流出先として他に目立つのはチームみらいで、参院選で国民に投票した人の8%が今回流れた。一方、参院選比例区で日本維新の会に入れた人のうち、自民に13%、みらいに7%が流出したという。
中道は、支持率で自民に大差をつけられた上に、無党派層に浸透できなかったことが響いた。自民の支持率は今回40%で、前回衆院選の33%から増えたのに対し、中道は12%で、前回の立憲の18%、公明の5%の計23%から半減した。
今回の200選挙区では、中道支持層の91%が中道候補に投票。また、昨年参院選の比例区で立憲に投票した人のうち、今回中道に投票したのは78%。昨年公明に投票したという人で、中道に投票したのは73%だった。公明は昨年まで自民と連立を組んできた。昨年の公明投票層には自民支持層もある程度含まれているとみられる。
政治学者・秦正樹 「中道」訴え、逆に際立った左派色 有権者の意識から見る大敗と希望
2026年2月17日 7時00分 寄稿・有料記事
https://digital.asahi.com/articles/ASV2G3RZ2V2GULLI001M.html?iref=pc_photo_gallery_bottom
(衆院選結果 識者に聞く)首相、イメージづくり成功/民意を的確に反映する選挙制度へ議論が必要/慶応義塾大学名誉教授 小林良彰氏 公明新聞 2026年2月18日付 1面
『宗教問題』53号、特集:創価学会と中道改革連合、2026年3月31日。
by 中野毅の朝風呂 [創価学会研究] [政治社会問題] [コメント(0)|トラックバック(0)]







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