島田裕巳『参政党の研究』(宝島社新書、2025月11月)を読む2025年11月22日

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新しい形の「スピリチュアルな国民運動」
参政党の強みと弱みを暴く


2025年7月、参議院選挙で参政党という新興政党が突如大躍進し、他方で、自民・公明・共産などの既存の組織政党が大敗北を喫した。この参政党について、新書ながらも、排外主義ともとれる「日本人ファースト」のほか、「反ワクチン」「オーガニック」といった身体感覚やスピリチュアルに訴える政策、徹底的にオールドメディアに抵抗するそのスタイルなど、既存政党と大きく異なる特徴、支持層の特性、公明党・創価学会との類似点など、全体像を描いた労作である。
50万部突破の『言ってはいけない 残酷すぎる真実』著者・橘玲さんとの対談も加え、いつもながらの読者を引きつける筆致には感心する。参政党のみならず、既存政党や日本政治の今後を考える上で必読の文献と思われる。

ポイントは下記のようなもの。
●世界の潮流である反グローバリズムという名のナショナリズムが参政党を生んだ
 単に右派の台頭、ポピュリズムの暴走などではなく、世界全体や現代日本を覆うグローバリズムという巨大な力に生活を脅かされていると感じる人々の抵抗運動であり、自分の身体感覚を通して真実を求めるスピリッチュアルな自己探求という現代的精神性、これら二つのものが日本の国体と伝統という物語を触媒として結びついた、新しい形の「スピリッチュアルな国民運動」である(はじめに)。
●参政党の戦略の根幹は卓越した「争点設定」
参政党の支持層は、現在の生活難と将来を危惧する就職氷河期世代と、子供の教育や健康に不安を感じている女性層などである。彼らに対し、それらの不安・不満の原因はグローバル化を推進する既存勢力、エリート層、外国人であり、それらから日本文化と自分自身を守らなければならないという「日本人vsグローバリスト(ディープステイト)」という単純な二項対立に集約し、その解決策として「日本の国柄を守る」「日本人ファースト」という分かり易く突き刺さるキャッチコピーを叫んで取り込んだ。
●巧妙な組織化戦略
 SNSの活用など他の新興政党にも見られる手法も当然活用しているが、参政党の強みは勉強会や会費制会員制度など組織化を地道に進め、政界進出も地方議会から進めたという手堅い基盤をつくった点にある。食や医療のあり方が不満をいだく人びとをターゲットに、バブル時代に流行した自己啓発セミナーの洗脳的手法も活用(79)。かつての山岸会にも見られる、現代社会で孤立し、浮遊している人びとに新しいコミュニティを提供した。
●「龍馬プロジェクト」という伏線
 参政党の地方組織、地方議員を生みだした苗床は、代表の神谷が10年以上かけて築きあげてきた「龍馬プロジェクト」。全国の若手地方議員による超党派のネットワークであり、「日本の未来を憂う」という一点で、所属政党の垣根を越えて地方議員を結びつける私塾であり、政策集団。2022年の参院選以前から、参政党が各地の地方議会で議席を獲得できたのは、このネットワークに参加した地方議員が鞍替えして参政党の候補者になったから。彼らは地盤と選挙のノウハウをもつプロである。参政党の組織は、「龍馬プロジェクト」出身の経験豊富な地方議員と、SNSや勉強会を通じて集まった、熱心ではあるが政治的には素人の二重構造で出来上がっている。このような基盤があったからこそ、急速な党勢拡大に成功したのだ(274-275頁)。
●参政党のモデルは、創価学会・公明党と共産党
 参政党の創立には、弁護士、学者、他党の職員など多様な人びとがかかわっているが、その一人でジャーナリストの篠原常一郎氏は「実は参政党のモデルにしたのは、共産党と公明党」と証言している。彼はかつて共産党の専従職員で、民主党で政策秘書も務めたこともあり、党費や「赤旗」の購読費を集めた経験から、参政党では月1000円の党費を毎月納めさせる仕組みを作ったという(276)。
 著者の島田氏はさらに、「龍馬プロジェクト」に見られる地方議会から国政へという戦略は、まさに創価学会・公明党の政治参加のプロセスそのものであり、そこから学んだものが大きいはずと断言する。それだけではなく、参政党の支持基盤は就職氷河期時代の人びとに代表される年収400万円以下のロウアーミドル・クラス(中流下層)であるが、彼らに新たな共同体と物語を提供する参政党の運動は、戦後の高度成長期に都市に流入してきた下層の人びとに希望と政治参加の道を提供した創価学会・公明党の現代版だと論じる(276、212-217)。
●参政党を躍進させたれいわ新選組のポピュリズム
 この点は評者も思いつかなかったが、かたやリベラルな方向性の代表と見做されている「れいわ新選組」支持者から参政党へと有意味に流れているという(第5章)。従来の自民党支持層の極右的な部分が参政党へ流れたとも言われているが、参政党へ流れた支持層の分析はさらに必要と思われる。私は、上記の現在のロウアーミドル階層の人びとは公明党支持層とも重なっているはずなので、そこから参政党へ流れた人びとも一定いたと考えている。

保守・リベラルともに支持し、女性人気も高い参政党が目指すところは何なのか、なぜこれほど多くの有権者が熱狂するのか。現代の日本人のメンタリティを踏まえ、その人気の根底にあるものを見事に描いています。また、上記の諸特徴が逆に足かせや対立の要因となって、参政党が没落する危険性、可能性も結論部分で指摘しており、なかなかの力作でした。