島薗進編『政治と宗教』(岩波新書)出版案内2023年01月24日

 出版のご案内です。島薗進編『政治と宗教: 統一教会問題と危機に直面する公共空間』(岩波新書、1月24日刊)。第3章を担当しました。本書は、安倍元首相の殺害事件により次々と明らかになった旧統一教会と自民党との驚くべき癒着の実体を受けて、政治(家)と宗教団体の関係はどうあるべきなのか問題提起した一書です。多様な個人や集団が合意を形成して社会を形成・運営する場を「公共空間」とすると、現在の日本における公共空間は、旧統一教会や日本会議など右派宗教団体と自民党とのもたれあい、創価学会と公明党との関係などで歪められているのではないかという編者の問題提起が前提となっています。

 第1章は宗教学者の島薗進(東京大学名誉教授)氏が、第2章は世耕自民党議員と統一教会をめぐるスラップ訴訟で勝訴的和解を勝ち取った中野昌宏(青山学院大学教授)氏が、教会の歴史、教義、自民党、特に岸信介からの密接な関係、凶悪事件の疑いとそれを握り潰した政治の力を克明かつ簡潔に描いています。文鮮明を現代のメシアとし、韓国はアダム国家で、堕落させた女エバのサタン国家が日本、日本の信者が膨大な金を貢ぐのは植民地支配した過去への贖罪(蕩減)だとか、先祖を地獄から救い出すため(先祖解怨)には高額の献金をせよと恐喝まがいの教えを説くなど、信者を奴隷化し人権を蹂躙する教義を掲げ、なおかつ政治的には文鮮明は天皇を支配する存在であると主張している統一教会が、岸・安倍三代を中心とする自民党右派や自称愛国主義者達が深く結託していた事実が明らかにされてます。それには驚くほかはありません。1970年代には霊感商法で社会からの批判を浴び、その後、静かになっていたと思っていましたが、そうではなかったわけです。

 第3章「自公連立政権と創価学会」は私が書きました。戸田時代に政治を庶民の手に、国立戒壇建立などの目標を掲げ無党派で政界に進出し、池田時代に宗教政党・公明党を結成して自民党政権に挑戦し、やがて国民政党に変わり、ついには自公連立にいたる創価学会の政治参加の過程を段階的に整理しました。
 さらに自民党との連立に至った諸要因を検討し、自公連立政権への参加は国民の生活支援のための諸政策の実現など利点はあるが、自民の失政に共同責任を取らされたり、右派との妥協など代償も少なくないこと。公明党は支持者に多い階層的に低い人々を上昇させる長期的なマクロ政策を打ち出して自民との相違を明確にする必要性。党組織の確立と主体的な選挙運動、党首選や候補者選定での透明化や公開性の必要性。また信仰と政治的信条は別であり、会員の政党支持は結党以来公式には原則自由とされ、公明党支援は会員の自発的な同意が前提となる、従って異なる政治的見解をもつ会員へさらなる寛容性が必要であることなど、自公連立の利点と代償、今後の課題について書きました。
 様々な宗教者や宗教団体が公共空間に参加していくことは歓迎すべき事です。その際には社会の公益性への貢献、基本的人権の重視、自他の相互尊重を大前提とし、公開性と透明性が不可欠です。創価学会の政治参加のプロセスは公共空間への参加の一形態であり、一過程でもあります。今後のさらなる改善と進展を期待しています。

 第4章はフランスの政教関係ライシテの専門家である伊達聖伸氏がエホバの証人や統一協会などの「セクト」対策の経緯と特徴、2001年の「反セクト法」の制定とその運営、経緯と課題について論じています。

 第5章はアメリカ宗教専門家の佐藤清子氏が、アメリカの政教分離制度、政治家と宗教の深い関係、宗教的理念による活発な市民運動を論じています。統一教会は米でも1970年代後半に問題となり、文鮮明が脱税容疑で逮捕され、岸信介が釈放嘆願書を大統領に送ったことは有名です。なお米国では宗教団体が選挙での支援する運動は禁じられてるが、信徒による政治活動委員会を組織して支援活動をしています。
近年における政治と宗教のあり方を再考察する上で、参考にしていただければ幸甚です。

https://www.iwanami.co.jp/book/b618315.html?fbclid=IwAR2i_ftgIYbv1MIfhQo4V2AVKI8gOGn5YGhD26RPYyXS0qVsTNgvu9Xbgac

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